戦後消えたはずの病気が今、乳幼児に増えている理由とは?
かつては身近な病気だった「くる病」。栄養状態が改善された現在ではほとんど見られることがなくなりましたが、近年子供たちに急増しているようです。
その背景には紫外線対策を過剰に行ってしまうことなどによる「ビタミンD」の不足があります。
この記事の目次
戦後の国内でほとんどなくなっていた「くる病」の増加
足の骨の形状が変わり、歩きづらくなる危険性もある「ビタミンD欠乏症くる病」が最近、乳幼児の間で増加傾向にあります。
「くる病」は日本では栄養が不足していた高度経済成長期よりも以前に多く見られていましたが、食料における環境の改善によって、過去の病気とされていました。
「(かつて、くる病は)学会報告などでも、非常に珍しい病態と考えられていた。
ところが20年ほど前から、ぽつぽつ見られるようになり、最近は、ごくありふれた病気と言っても過言ではないほど、患者さんは増えてきている」とは、千葉県こども病院の医師の言葉です。
「くる病」とは何か?
画像引用元:http://nbs20140216-fn-matsu.blog.so-net.ne.jp/2014-05-02
「くる病」とは、足などの骨が曲がった形に変形し、その病状が進行すると歩行も困難になってしまうケースもある病気です。
戦前は「くる病」にかかった患者は「背むし」と呼ばれていましたが、現在では、差別用語であるこの言葉の使用は社会的に控えられるようになりました。
生後3ヶ月〜6歳の成長期に起こるもので、この骨の発育期に、カルシウムが骨に沈着せず、柔らかい状態の骨の組織が増えている状態のことを「くる病」と言っています。
この状態になると、多くの場合、軟骨部や骨格の変形、そして骨の成長障害などをともないます。
くる病によって起こる成長障害や骨の変形は、低身長や極度のO脚やX脚の原因となります。
かつて栄養状態の悪い環境だった時代は珍しくない病気でしたが、高度経済成長を迎え、豊かな食の環境が整い、さらに予防として日光浴が推奨されるようになって以降、日本ではあまり見られない病気となっていました。
ビタミンDの欠乏が原因のほとんど
画像引用元:http://kemnpus.exblog.jp/10178574
ビタミンDは、ミネラルやカルシウムを骨に沈着させる作用があるので、骨が成長するために欠かすことのできないものです。
このビタミンDが不足するとどんなことが起こるかというと、一つは、カルシウムの沈着がしにくくなることから、骨が柔らかくなり、「くる病」につながるという事があります。
また、骨の生育に異常が生じてしまうので、くる病以外にも「骨阻そう症」や頭蓋骨がへこむ「頭蓋ろう」などを引き起こす可能性も高まります。
ビタミンD不足の背景として、過度に紫外線を避ける生活習慣の広まりが指摘されています。
過度な紫外線対策をするようになる原因は、美容を目的とするものや紫外線による皮膚がん発症のリスク低減などが考えられています。
ビタミンD欠乏症を起こしやすい人の代表的な例は以下の3つです。
①屋内にこもりがちな高齢者。紫外線にあたることが不十分になっていること栄養不良によって。
②日焼け防止の目的で、全身と顔を衣類で覆っていたり、紫外線カットの化粧品を多用している女性や小児。
③ビタミンD抵抗性のくる病の場合は、ビタミンDを正常な量補給していても、賢障害といった基礎的な疾患がある人の場合。
必要なのは食事によるビタミンDの摂取と適度な日光浴
画像引用元:http://happy-topic.com/archives/3323.html
名作アニメ『アルプスの少女ハイジ』には、車椅子の少女クララが立ち上がる有名シーンがあります。「クララが立った〜!」という名シーンですね。
クララの病気は実はビタミンD不足による「くる病」とされていました。
それが主人公ハイジの故郷で日光浴を継続することで改善され、立つことができるようになったのです。
現代では、紫外線については害ばかりが強調されていますが、その陰に隠れるように、日光浴の重要性が目立たなくなってしまっています。
確かに紫外線には害もありますが、同時に、日光不足も心身に悪影響です。乳幼児であっても、極端な紫外線の回避をやめて、帽子をかぶり散歩に出るなどすることは、実はとても重要なことなのです。
ビタミンDは紫外線の照射を皮膚が受けることで、コレステロールから生成されます。ただし乳幼児はこれのみでは足りないため、食べ物からも摂る必要があります。
極小未熟児は特に、ビタミンD欠乏になりやすいことがわかっています。
ビタミンDを豊富に含む食材・食べものには「脂肪に富む魚」が代表的な食材としてあげられています。特に魚の脂身や肝油には豊富だと言われています。
その他、「きくらげ」「しめじ」「干し椎茸」などのキノコ類や「卵黄」などにも、その他の食品と比較するとより多く含まれているそうです。
更に書くと、上記の食品の他にはビタミンDが含まれていることはほとんどありません。
そのため意識的に摂っていくようにする必要があります。
気をつけるべき母乳育児の落とし穴
関東地方の健康な約70人の子供の血中ビタミンD濃度を調べた結果、約4割の子供が不足しているということが最近の調査でわかっています。
母乳育児が推奨されている昨今ですが、そこには「くる病」の落とし穴があります。
実は母乳にはビタミンDはほとんど含まれていません。完全に母乳だけで子育てをしてしまうと、ビタミンDの不足は避けられなくなります。
母乳にはカルシウムは含まれていますが、ビタミンDがないため、赤ちゃんが摂取したカルシウムが骨になるためには、同時にビタミンDを別の形で摂る必要があります。
そして離乳食が始まっていない赤ちゃんにビタミンDを摂取させる方法が、適度な日光浴なのです。
画像引用元:http://windy.air-nifty.com/note/images/Dscf0792s.jpg
真夏には熱中症が要注意ですが、1日10分ほどの「適度な日光浴」をすれば、それだけでビタミンD欠乏を防ぐことができます。
必ずしも直射日光に当たる必要はありません。20分くらい木陰にいるだけでも、ビタミンDは作られます。適度な外気浴だけでも十分なのです。